猫の慢性腎臓病と腎不全

様々な原因によって腎障害が起こりえますが、腎臓の慢性的な機能低下に対して包括的に慢性腎臓病という診断が下ります。猫では腎臓の主な構造の中でも尿細管間質の障害が病態の進行に深く関与しています。犬でみられる糸球体腎炎も慢性腎臓病の原因疾患ですが、猫での発生はまれです。ほとんどの症例で初期から多飲多尿が起こり、進行すると脱水による体重減少が認められます。

・慢性腎臓病の診断とステージ分類
・水和の維持と療法食
・治療と予後




本日は猫の慢性腎臓病の診断や自宅での継続治療についてご紹介します。
通常の病院でも一般的にみられる疾患ですが、往診ではこの疾患の症例が非常に多く、自宅で飼い主によって皮下点滴などの日常的なケアが行われることもあります。慢性腎臓病の診断には腎機能の低下が慢性的であることがもっとも重要であるとされ、血液検査でBUN、クレアチニン値あるいはSDMA 値の上昇が持続的に認められることが重要です。血液検査だけでなく、尿検査、画像検査、血圧測定も活用され、慢性腎臓病が明らかな症例においても治療を行いながら定期的な検診を繰り返して病態を把握します。

慢性腎臓病の診断とステージ分類

慢性腎臓病と診断された場合「IRISのステージ分類」によって治療方針を決定します。ステージ分類はクレアチニン値を基本としていますが、クレアチニン値の信頼性が低いと判断した場合はSDMA値で評価する(筋肉量の減少・高齢など)場合があります。

ステージ1~2(クレアチニン値<2.8mg/dLあるいはSDMA値<25μg/dLが持続)

基礎疾患および進行リスクの鑑別と治療にもっとも力を入れ、漫然とした皮下点滴や根拠のない投薬は行いません。

ステージ3(クレアチニン値:2.9~5.0mg/dLあるいはSDMA値:26~38μg/dLが持続)

さまざまな臨床徴候がみられる時期であり、対症療法が必要な場合は積極的に行います。

ステージ4(クレアチニン値>5.0mg/dLあるいはSDMA値>38μg/dLが持続)

重篤な臨床徴候がみられる時期であり、QOLの維持を第一の目標にします。QOL の維持に影響しない投薬は避けます。

水和の維持と療法食

猫では多尿により脱水傾向を示す症例が多く、全身状態の維持や急性増悪の予防のために適切な水和を維持する必要があります。自宅での摂水量を上げるため、器の材質の変更や増数、頻繁な水の交換やウォーターファウンテンの併用、ウエットフードの給与などを飼い主に指導します。このような工夫を行っても適切な水和が維持できない症例では皮下点滴を実施します。皮下点滴量は各々の症例に必要かつ最低限の量と頻度を探っていきます。静脈点滴と異なり皮下点滴では皮下→静脈への吸収効率を考慮する必要があり、一回の投与量を過度に多くしてもあまり効果はありません。点滴頻度も猫へのストレスを考えつつにはなりますが、頻回投与となる場合は飼い主さんの協力が必要です。また、猫では基礎疾患に心筋症をもっている可能性もあるため、皮下点滴を開始する際には心エコーや心負荷マーカーのチェックが推奨されます。
出来れば腎臓に配慮した療法食が望まれますが、現実的には食べない子や摂取量が低下する場合も多いため、無理な場合は十分なカロリー摂取を優先しています。

治療と予後

腎臓病、腎不全に伴う様々な症状に対して治療が変わりますが、主に腎機能の維持、血圧の正常化、貧血の改善、蛋白尿の改善、脱水の補正、低カリウム、高リンの補正が挙げられます。
また、日常生活としては強い吐き気や倦怠感がある場合も多く、制吐剤や食欲増進剤などを使った症状の緩和とQOLの改善も必要です。
ただし、点滴が必要な場合でも自宅で十分な点滴を受けさせることが困難な場合もあり、投薬だけで状態を維持せざるを得ないケースもあります。
また、現実的には診断から血圧などの精査に至るまで、かなり省略した検査で治療を進めなければならない状況もありますが、腎臓病にも様々な症状の出方があります。必要に応じて治療していければ予後は決して悪くない疾患のため、早期診断のもと適切な治療を開始することが重要です。