猫の高リン血症の意義と腎不全の進行

・猫のリンの腎排泄低下と臨床兆候
・高リン血症の原因
・高リン血症の治療
・慢性腎不全における高リン血症と予後の関連


猫の高リン血症の意義と腎不全の進行

 

体内の電解質の一つであるリンの調節はカルシウムの調節とほとんど同様に行われており、リンの排泄は腎臓から行われています。無機リンの85%がろ過され、その内 70 ~ 80%が再吸収され、多くが腎臓の近位尿細管で再吸収されています。上皮小体ホルモンや一部腫瘍などもリンの濃度に関与しますが、多くの場合は腎不全であることと血液検査上のリンの濃度が高いことに関連があり、腎不全の予後の判断材料としても利用されます。


リンの腎排泄低下と臨床兆候

高リン血症の一般的な原因は腎排泄低下であるとされています。高リン血症は慢性腎臓病の早期からは認められず、ステー ジ2の後半から3以降に出現する場合があります。
ある程度腎不全が進んでいても、リンやカルシウムが正常であることも多々ありますが、これらの異常のあるなしによって投薬を加えていくことが大切です。慢性腎臓病での高リン血症の問題点は、続発的に高カルシウム血症を引き起こすことです。しかしながら高リン血症単独では臨床徴候を示すことはほとんどないため、血液検査でリンの高値がある場合は悪化を抑制する治療を進めなければなりません。


高リン血症の原因

高リン血症の治療の根本は原因疾患を治療することです。高リン血症でもっとも一般的な原因は腎障害であるため、腎臓自体の機能を維持できれば1番ですが、慢性腎不全では悪化が不可逆的になります。

 

急性腎障害

結石や中毒などが原因の急性腎障害では、リンに対する治療を考慮する必要はありません。腎機能が戻れば高リンも付随して改善しますので、急性腎障害による腎機能低下を改善させることが 優先されます。


慢性腎臓病

慢性腎臓病では、ステージ3以降で高リン血症を認めることが多くなります。高リン血症自体が慢性腎臓病の進行要因であり、高リン血症がある症例は生存期間が短いことも報告されています。そのため高リン血症を伴う慢性腎臓病では積極的に血中リン濃度を低下させる治療を行う目的で、脱水の補正が第一に行われます。脱水が起こると腎臓からのリンの排泄量も低下しますので、血液中のリンの濃度が増加します。


高リン血症の治療

高リン血症の治療

高リン血症の治療として、主にリンの制限食と吸着剤の使用があります。腎臓への根本治療や脱水の補正の他に、投薬で管理できる治療となります。



リン制限食

慢性腎臓病ではリン制限食が治療の中心となります。猫の腎臓病用療法食は一般的なフードと比べてリンの含有量が制限されています。
しかしながらあまり早期からリン制限を確実に行わなければならないかということに関しては一定の議論があります。


リン吸着剤

リン制限食を使用していても高リン血症が持続する場合にはリン吸着剤を使用します。リン吸着剤は食事中のリンを吸着し、糞便中に排出させる薬剤であるため、食事を十分に摂取できている場合に有用とされています。


慢性腎不全における高リン血症と予後の関連

慢性腎臓病では高リン血症の存在は予後の悪化と関連するとされるため、慢性腎不全に高リン血症が伴う場合は通常の腎不全治療に加えてリンに対する対処もしていくことが重要です。


※参考文献:猫の治療ガイド2020. 2020,8,1.p441-442

記事執筆者
長江嶺(金乃時アニマルクリニック・獣医師)
略歴:東京都内の動物病院、神奈川県内の動物病院の勤務医を経て、現在は横浜市を診療エリアとする往診専門の動物病院を運営しています。詳しいプロフィールはこちらです。

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