黄疸の原因と猫伝染性腹膜炎(FIP)

・黄疸の原因分類
・猫伝染性腹膜炎(FIP)のタイプと診断
・診断に苦慮した猫の症例


Online shop


本日は「黄疸」が主訴の猫の往診について症例をご紹介します。
今回の猫は黄疸や食欲低下を主訴としており、FIP(猫伝染性腹膜炎)やその他疾患の鑑別診断のため、超音波検査、血液検査を行いました。



黄疸の原因分類

黄疸は血液中のビリルビン濃度が上昇することにより、眼球結膜(白眼)や皮膚が黄色くなる病態の事です。
黄疸自体は視覚的な所見なので、多少高値のビリルビン値であっても必ずしも認められるわけではありませんが、継続して高値となる病態では飼い主さんでも確認できるような黄疸が現れます。逆に原因が解消されても暫くは症状が残るので、リアルタイムで治療反応や状態を確認する上では血液検査が望まれます。
主に原因としては溶血、肝実質障害、肝外胆管閉塞の3つに分類されます。

溶血

溶血では、なんらかの免疫異常や感染などによって赤血球が壊れ、赤血球内の色素が血中に漏れ出してしまう状態です。

肝実質障害

肝実質障害では、肝臓の機能が著しく低下し、ビリルビンを代謝できなくなった結果血中に漏れ出てしまう事が原因です。
肝機能不全の理由となる疾患が原因となりますが、基本的には進行が穏やかである為、定期的な健康診断などで事前に把握しやすい傾向にあります。

肝外胆管閉塞

肝外胆管閉塞では、胆汁をプールしている胆嚢や胆嚢から十二指腸に伸びている胆管に何らかの閉塞があり、胆汁を上手く排泄しない事が原因となります。
この場合は閉塞物を取り除いたり、胆嚢自体を切除するような外科的治療の適用となります。
胆管癌や壊死性胆管炎など、閉塞を解除しても回復しないような病態もあり、外科手術が困難な場合もあります。



猫伝染性腹膜炎(FIP)のタイプと診断

肝実質障害の一つである猫伝染性腹膜炎(FIP)には症状の現れる場所によってドライタイプとウエットタイプの2種類があります。
この疾患は猫コロナウイルスの変異によって生じる猫伝染性腹膜炎ウイルスによって発症します。
診断には様々な検査が必要ですが、抗体価検査やAGP、その他血液検査、胸腹水、病変部の遺伝子検査から総合的に判断します。



診断に苦慮した猫の症例

Online shop


検査によって明らかにFIPであると確定できる猫もおりますが、今回の症例は黄疸と食欲不振、肝数値や炎症値の上昇を主訴とした若齢猫です。抗体価検査では否定できないレベルのグレーゾーンで腹水や胸水の貯留はなく、超音波検査でも胆石や胆管閉塞など明らかな異常は認められなかったため、追加検査としてAGPの測定に進みました。
AGPでも確定診断には至らないものの、同様に否定もできないレベルの高値で非常に診断に迷いました。
(確定できる値と否定できる値の間にグレーな領域が存在します。)
検査を進めつつ対症療法を続けた結果、黄疸は解消され、結果としては順調に快方に向かいました。
その他、軽度の胆管肝炎は疑われたものの特に重度の胆管閉塞などで見られる胆管拡張、感染や溶血性疾患は認められず、今回の黄疸が一過性であった事、期間がある程度長い事(悪化がない事)から黄疸の原因からFIPは除外し、その他検査結果から胆管肝炎と仮診断しました。

今回のように明らかな感染症や胆管閉塞、肝臓障害、溶血性疾患などが認められないにも関わらず黄疸が確認され、診断に苦慮する事が稀にあります。
その期間、(FIPと断定されないという側面はありますが)確定診断に至らず飼い主も不安な気持ちになります。このまま症状が改善せず原因が分からない場合は肝生検や胆嚢生検、胆汁検査、胆管造影などに進む場合もあります。

飼い主さんも普段の猫の白眼の色や耳や皮膚の色を普段から観察することで、色素沈着に気がつく事が出来ます。人間と異なり露出している皮膚や粘膜の面積が少ないので、日常的に観察することが重要です。



記事執筆者
長江嶺(金乃時アニマルクリニック・獣医師)
略歴:東京都内の動物病院、神奈川県内の動物病院の勤務医を経て、現在は横浜市を診療エリアとする往診専門の動物病院を運営しています。詳しいプロフィールはこちらです。

CONTACTお問い合わせ・予約

診療時間:10:00~19:00
【土日祝も診療】
※事前予約・不定休

往診対応エリア
【横浜市内】
港南区/戸塚区/南区/保土ヶ谷区/西区/栄区/磯子区/中区/金沢区/泉区/瀬谷区/
神奈川区/旭区/青葉区/緑区/都筑区/港北区/鶴見区

【横浜市周辺エリア】
川崎市/大和市/座間市/綾瀬市/藤沢市/鎌倉市/逗子市

TEL:080-7475-5073

※折り返し希望の方はメッセージを残してください

お問い合わせ・予約